「琉装」琉球王朝時代に中国からの冊封使を歓待するための宮廷舞踊が 現在の琉球舞踊であり、装いを琉装という。 琉装の中で代表的な染色技法と言えば士族階級以上のみ許された紅型がある。 士族階級でも色と図柄の大きさによっては下級士族は使用不可と細かい取り決めがあった。 沖縄は亜熱帯特有の湿気を含んだ気温の高い気候の為、琉装は風通しを考慮し袖も広めで 素材には芭蕉布を使用、また、和装とは違い基本的に帯は締めないウシンチーという独特な着方で 細帯で腰あたりを締め上着を着る、全体的にゆったりとしたゆとりのあるまさしく、気候に合った最適な装いである。 沖縄で生まれ育った私にとって決して珍しいものではなく、興味の対象には成り得なかった。 長年沖縄の文化に触れることなく、時を過ごしていたが、写真家となった今、自らの表現を追い求める中 幼少時に見ていた琉装のマテリアルやディテールの再確認を思い立った。撮影は、思いがけず故郷に根付いた文化に向き会う、自身のルーツの探求と重なった。 今回の撮影におけるテーマは「回帰」だ。琉球王朝時代の空気感、臨場感の再現である。人工光を始め人工的な物は避けなければならない。 古代から変わらず存在する亜熱帯特有の光と まとわりつく湿った空気と冬に限定した。撮影にあたり私と古代の架け橋として、いくつかの手法を試みた。 試行錯誤の末、最終的にいきついたのは被写体を鏡に映し込むものだ。 鏡に写る世界は、異次元への入り口のようで不思議な力を感じ、 琉球王朝時代に生きた人々と同じ空気に触れるような気がする、私はそこにかけた。琉装をまとった人物が悠久の昔と変わらない湿った空気の中、鏡に映る。 鏡の向こうにも遥か琉球の空が広がっている。